一之瀬さんちの家政婦君
Episode. 5 あなたの事が好きだから
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和真は夢を見ていた。
赤ん坊の和真は温かい女性の腕の中であやされながら眠っている。
そうかと思えば、幼稚園児の和真が木登りに失敗して怒られている。
そして、小学生の和真がテストで満点を取って褒められている。
成長過程の和真のそばには『和真様』と呼ぶ優しい声と、飛鳥によく似た女性が一人。
和真の両親は仕事が忙しく、一人息子の面倒は家政婦の藤原 双葉(ふじわら ふたば)が担っていた。
『和真様、朝食が出来上がりましたよ』
幼少期の和真の前に出されたパンとミルクとふわふわ玉子のオムレツ。
和真はその家政婦が作るオムレツが世界中のどんな食べ物よりも大好きだった。
朝食の風景は幻灯機を使った映像のように次から次へと変わっていく。
『和真様、またケンカをしましたね。“お友だちは大切に”とあれほど申し上げていますのに……』
家政婦は擦り傷だらけの和真の前で両手を腰に当てて困り顔をしている。
叱られているはずなのに、気持ちがほっこり温かい。