一之瀬さんちの家政婦君

経は亡者を黄泉の国へと安らかに送るためのもの。

彼女がこの世からいなくなってしまった現実を容赦なく和真につきつけてくる。

もう彼女に会う事も、大好きだったオムレツを食す事もない。

心にぽっかりと穴が開いてしまったようで、和真はたまらずその場に座り込んでしまった。

両親が忙しく相手にされなくても、それを見ていつも憐れんだ視線を向けてくる人間たちがいても、涙の一粒も零すことは無かった。

自分は本当に人間なんだろうかと疑いたくなるほどに。

彼女の死によって、和真自身がきちんと人間であることをこの日思い知らされた。

涙が溢れて止まらない。

廊下の片隅で声を殺して泣いた。

時間を忘れて悲しみにふけていると、葬儀会場の扉が静かに開いた。

参列者が次々と出ていき、最後に彼女が入っている棺が運び出された。
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