一之瀬さんちの家政婦君
一瞬、音を取り戻した廊下もまたすぐに静まり返って、和真の深い悲しみも甦ってくる。
誰もいなくなったかと思われた葬儀会場に、小さな足音がコトンコトンと響く。
和真が顔を上げると、黒いワンピースを着た小さな女の子が立っていた。
「……おにいちゃん、泣いてるの?」
小首を傾げて問いかけてくる女の子に対して、年上としての恥ずかしさが湧き上がる。
「なっ、泣いてなんかない……!」
和真はムキになって泣き腫らした目元を手の甲でこすった。
泣き止まないといけないと思えば思うほど、涙は零れ落ちていく。
止まれっ!止まれっ!止まってくれ……
和真の心が悲鳴を上げる。
その時、もみじのように小さくて柔らかい手が和真の髪に触れた。
「いい子ね――…いい子……」
まるで子どもでもあやすかのように、その女の子は和真の頭を撫で続けた。