一之瀬さんちの家政婦君
自然と涙が頬を伝った。
和真は自宅のベッドでゆっくりと瞼を開いて目を覚ました。
広い天井、殺風景な自室が視界に入る。
懐かしい夢を見た。
一之瀬家の家政婦だった藤原 双葉は飛鳥の母親だ。
果たして、飛鳥はこの日の事を覚えているのだろうか。
覚えていたとして、幼かった飛鳥は葬儀場の廊下で泣きべそかいていた男の子に花を贈っただけにすぎない。
たった一輪の花が目の前の男の子を悲しみの淵から救い上げていたなんて思いもしないだろう。
和真自身、ようやく飛鳥を守れるだけの地位と実力を手に入れた。
傍に置いて、自分の目の届くところで彼女の幸せを見届けるつもりだった。
「飛鳥……」
和真はポツリと彼女の名前を呼んだ。
当然、返事があるわけがない。
言葉は泡のようにスーッと音もなく消えていった。