一之瀬さんちの家政婦君
「飛鳥ちゃん?」
飛鳥を呼んだのは、喜島珈琲店の櫂人だった。
ヘルメットを座席下に収めて、櫂人は飛鳥のいる防波堤へと歩く。
「喜島さん、どうしてここに……」
空になったお弁当箱を片付けながら、すぐに飛鳥は問いかけた。
その問いを聞くと、櫂人は声に出して笑いながら「それ、俺の台詞だから」と返す。
確かにその通りだ。
櫂人がバイクで漁場を訪れるよりも、飛鳥が漁場の防波堤で昼食をとっている方がよほど不自然。
飛鳥は苦笑する。
「まぁ、いいや。俺はコーヒー豆の配達で来たんだよ。港近くで食堂やってるおやじがうちの豆のファンでさ。たびたび届けてるってわけ」
「そうなんですね」
飛鳥は納得して頷いた。
喜島珈琲店は昔からやっている喫茶店で、馴染みの客も沢山いる。
櫂人が飛鳥の横に腰をおろす。