一之瀬さんちの家政婦君

「飛鳥ちゃん?」

飛鳥を呼んだのは、喜島珈琲店の櫂人だった。

ヘルメットを座席下に収めて、櫂人は飛鳥のいる防波堤へと歩く。

「喜島さん、どうしてここに……」

空になったお弁当箱を片付けながら、すぐに飛鳥は問いかけた。

その問いを聞くと、櫂人は声に出して笑いながら「それ、俺の台詞だから」と返す。

確かにその通りだ。

櫂人がバイクで漁場を訪れるよりも、飛鳥が漁場の防波堤で昼食をとっている方がよほど不自然。

飛鳥は苦笑する。

「まぁ、いいや。俺はコーヒー豆の配達で来たんだよ。港近くで食堂やってるおやじがうちの豆のファンでさ。たびたび届けてるってわけ」

「そうなんですね」

飛鳥は納得して頷いた。

喜島珈琲店は昔からやっている喫茶店で、馴染みの客も沢山いる。

櫂人が飛鳥の横に腰をおろす。
< 98 / 151 >

この作品をシェア

pagetop