嘘は取り消せない
九ノ瀬side

バイト途中、先輩からの言葉
「九ノ瀬君、なんか急な用事だって、電話が
かかってきたんだけど」
「え、俺、ですか?」
「うん、なんか“クラシナ”さん?」
「すぐ行きます!」
「ちょ、仕事は!?」
クラシナさん
倉科さん
急な用事…………………
急って、何なんだよ!

「本当に大事な用なんです!」
今の時間帯、お昼頃が一番忙しいのは
知ってるけど、何故か今行かなければ
いけないような気がして


すると、先輩は頭をガシガシ掻きながら
「はぁ、しょうがないな 行ってこい」
「あ、ありがとうございます!!!」

先輩、ありがとうございます
いつかきっとお返しします


「くっそ、こんな時に鍵が
見つからない!」
車の鍵が見つからない
どこやったんだよ!俺!

「おい! 九ノ瀬!」
不意に名前を呼ばれる
今そんな暇ないのに、と思いながら
前を向くと、
「あ、秋月!」
「桜が、危篤状態だって! 乗れ!」
そうか、秋月が働いている塾は
ここの近くだもんな
「ありがとう!!!」

そして秋月は車を飛ばした
「おい、危篤状態って、本当か?」
「あぁ、樹さんが電話してきた」
「マジかよ………」
倉科さんは無事なのか?
そんな俺の考えを見透かすように
「今は焦るな、最悪の場合を考えるな
桜を信じろ」
「…………っ、そうだな」



_______________今の秋月はかっこいいな



「秋月、俺は倉科さんが好きだ」
「俺も」
「だから最後まで信じるぞ」
「当たり前だろ」


最後まで信じる
信じて何かが変わるなんてことはないと
思うけど、


「倉科さん、無事でいてくれよ」




“今日は、いい天気ですね”
“冬なのに、日差しが暖かくお散歩日和です”
“きっといい午後を過ごせますね”

二人の空間にはラジオの音声しか
響いていない

ラジオの音声だけ…………
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