嘘は取り消せない
湊side

塾を休み始めたの桜姉は塾へ行っている時よりずっと明るくなった気がする
いや、明るくなりすぎているような気がする

宿題である裁縫をしながら赤く染まりつつある
空を眺める
「痛っ………」
指に思いっきり針が刺さる
ぷくぅ、と血が溢れる
「うわっ」
慌てて口に指をいれ、血を舐める

「不味い………」
まぁ、そりゃあ、鉄分だし

桜姉は3年前によく裁縫やってたな
桜姉の刺繍は凄かった

桜姉は器用だな………………




いや、違う_______________


桜姉は不器用だ
誰よりも不器用だ
頼り方を知らない、
自分のやりたいことが見つからない、
誰よりも不器用で、



誰よりも感情を隠すのが上手かった



「あぁあー 終わらない」
これじゃあ日が暮れても、月がでてきても、
また太陽が昇ってきたとしても
絶対に終わらない気がする

「桜姉!」
2階にいる桜姉に声をかけてみる
「桜姉! ちょっと来て!」
聞こえたかな…………

すると微かだが、声が聞こえた
「すぐ行く!」

そして廊下を走る音が聞こえる

ドタドタ、ドタドタ_______________
ドタ_______________ガッ!ドンッッ!

足音が消えた直後、何かが落ちる音がした

階段へ向かうと

「桜姉!」
うつ伏せになって倒れている桜姉

「桜姉!しっかりして!」

救急車呼ばないと…………!
もしも、桜姉が倒れた時すぐ救急車が
呼べるように勉強しておいてよかった


「桜姉! 起きて! しっかり!」
救急車を呼び、桜姉の反応があるまで
呼びかけ続ける

ふと頭の中で、最悪の事態が浮かぶ


そんなはずない、死なせてたまるか

冷静でいないといけないのに冷静になれない
俺は自分では冷静なほうだと思ってたけど
家族が大変なことになるとこんなに
慌てるんだ
自分の事なのに感心してしまう

「桜姉! ねぇ!」

こんなに取り乱したのは桜姉の余命宣告を
聞いた日以来だ



「お願い!目を覚ましてよ、さくちゃん!」



さくちゃんなんてもう呼ばないと
思ったのにな…………




そして救急車の人が来た

病院に着く

樹兄と合流する

樹兄が出張でいない父さん達に
連絡する

何度も見た光景

余命宣告をされてから何度も、何度見た


専属医の立花明先生が近づいてくる
その顔は安心しきった顔で
「大丈夫です、
特に大きな外傷は見つかりませんでした」

「良かった…………」
「先生、ありがとうございます」

だけど一瞬にして立花先生の顔が曇る

「ただ、頭を強打したみたいなので



記憶障害があるかもしれません」


その言葉は余命宣告と同じくらい重いもので

「ねぇ、嘘だよね…………」



「だって、さくちゃんさ、約束したじゃん」



“湊君がね、20歳になったら”

“一緒に星を見に行こ!”

“そのお星様を見るとね、元気になれるんだよ!”

“約束だからね”


俺が、“僕”が6歳の時に交わした
ちっぽけな約束

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