嘘は取り消せない
今日も倉科さんのところへ向かおうと
大通りを歩いていると


ねぇ、と後ろから声をかけられた
後ろに立っていたのは秋月蛍で
「あ、久しぶり 秋月」
「うん」
「どうしたんだ?」
「いや、倉科さんのことを聞けって
仲良かったでしょ」

まだこいつは倉科さんのことが好きなのか?
だけど俺の予想は裏切られて

「塾長が聞いてこいってさ
倉科さんの兄から連絡来てるし
別に来なくていいのに」
平然とした顔で言葉を放つ秋月

「なんで、そう思うんだ?」
冷静に、冷静に

「別に君には関係ないだろ」

「だけど倉科さんといるなら気をつけると
いいよ」

「いつか絶対捨てられるから」

「じゃあ」

一方的に話して去っていった秋月

あいつは何も知らないくせに
倉科さんがどんだけ秋月のことを好きだったか
今どんな状況に陥っているか


やっぱり秋月に倉科さんは渡さない
いや、渡せない



俺が病室に入るといつもと変わらない白、機械
「あら、九ノ瀬君、毎回ありがとね」
「いえ、全然」
「少し頼んでいいかしら?
飲み物買ってくるわ」
「はい」
千尋さんは相変わらずつきっきりで
看病している


ベッドで眠る倉科さんに目をやる
ただただ見ている
もしかしたら今日動くかもしれない、という
希望で毎日やっていた
だけどその努力が報われることは無かった




_______________今日までは

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