嘘は取り消せない
「く、倉科さん?」
「倉科さんって誰ですか?」
「さ、桜!? 覚えてないの!?」
「あの…………」

「あなたの名前は?」
立花先生が問いかける
「私の、名前?」
「はい」
「私は……………私は、」
倉科さんが下を向く


「あれ…………私は、誰?」














病室から出る
部屋には立花先生しかいない
「ねぇ、桜は本当に覚えてないのかしら……」
「分かりません……っ!」
これは夢なのか
夢であってほしい



そして数分後
湊や樹さん、誠さんも駆けつける

「千尋! 九ノ瀬君! 桜が目を覚ましたとは
本当か!?」
「桜姉!」
「桜は!?」


「ご家族の方、揃いましたね」
「あ、先生! 桜はどうですか!?」

「倉科さんは逆向性健忘だと思われます」

逆行性………健忘?
「健忘とは違うんですか?」
「簡単に言うと逆行性健忘とは受傷・発症より
昔の記憶が抜け落ちることで、
ある出来事から過去の記憶がなくなって
しまう症状です」
「倉科さんの場合どこかから落ちた、という
記憶だけ残っているそうです」
「そうですか………………」
「今まで身につけた知識などは記憶に
残っているので生活に支障は出ません」
倉科さんは、俺達のことを忘れて……………
「いつか思い出せますよね!?」
「九ノ瀬君……」
「君は倉科さんのご友人ですか?」
「はい!」
「思い出せる可能性はない訳ではありませんが
………………………難しいですね」
「そんな…………っ」
でも、可能性がゼロではない
だったら思い出させてやろう






だけど、倉科さんの思い出したくない、
元彼との記憶は、秋月蛍との記憶は、







思い出させない方がいいのか?
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