嘘は取り消せない
「そんな事ってあるんですか!?」
「医学的にはあるみたいだね
今の桜の逆行性健忘に
似た部分健忘という症状」
「そんな、その後はどうしたんですか!?」
「その後は1度も成瀬君の名前を出すことは
無かったし、桜が2度と思い出すことは
無かった」
九ノ瀬君は何を思うだろうか……
桜を不幸体質だって笑うだろうか
それとも、守りきれない俺たちを嘲笑うか

「このことは誠さん達は
知っているんですか?
知ってるのは、樹さんと湊だけだって」
「父さん達はこのことを知らない」

そもそも、成瀬君のことも知らなかったんだ
運良く出張から帰ってくる前に体調も
回復した

「余計な心配をかけるわけには
いかないんだ」

「父さん達も、いろんなことを
抱え込んでる」

「だったら俺たちで背負い込んでしまった
方が俺としては父さんたちが苦しむより
ずっと楽なんだ」

「そうですか…………
でも何で俺に?」
「さっきも言った通り信用してるから」
「他にも……他にも、理由ありますよね?」
「やっぱり九ノ瀬君にはバレちゃうか」

俺は、俺と湊は桜みたいに嘘が上手くはない
それは嘘をつく場面が桜に比べて圧倒的に
少なかったから
桜は誰にも心配させないように嘘を
ついてきた
俺たちに心配かけないように_____________
だから嘘つく回数も圧倒的に多かった
だけどその分、俺達は嘘を見抜くのが
得意になった
嫌な特技だと思うよ

「理由は簡単さ」

「九ノ瀬君には桜が聞きたいと言ったこと
以外は教えないでほしい」

「もちろん、蛍君のことも」

「桜が病気だったことは立花先生が話した」

「だけど余命宣告のことは話してない」

「桜に変なことを言って、
余計に負担をかけたくない」

「俺達もそうするつもりだから、
九ノ瀬君も今話したことを内緒に
してくれ」


これは俺の願いでもあり、湊の願いでもある
優しい九ノ瀬君はなんて言うのかな


「分かりました」


俺達兄弟のわがままな願い
それをすぐに了承してくれる九ノ瀬君

「君は物分りがよくて助かるな」
「いえ、倉科さんの為ですし」







「へぇ、いいこと聞いた」

その時、今までの話を盗み聞きしていた人に
俺達は気づけなかった
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