嘘は取り消せない
九ノ瀬side

樹さんが言ったことは本当なのだろうか
そんな、倉科さんが過去にも記憶を
失っているなんて

「なぁ、倉科さん」
「なんでしょうか?」
「倉科さんは何が知りたい?」
今までの生活?
今までの友人関係?
家族のこと?
仕事のこと?
この街のこと?
それとも、それとも_______________

「私は何も知らないのは嫌です」

「だけど知って傷つくのも嫌です」

「もうこれ以上皆さんに迷惑を
かけたくありません」

「だけど自分がわからないのは怖いです」

「私って我儘ですね」

そうやって無理に笑うところ
秋月と、前話した時と変わらない嘘の表情
「倉科さんは、無理には笑わなかったよ
だから、辛い時はすぐ言えよ
家族も俺も支えるから」
「そうですか………………」

嘘だけど、倉科さんが無理に
笑わなかったなんて嘘だけど
もし、記憶が戻らなかった時も
すべて抱え込ませたくないから
多分俺は倉科さんの為なら……………
倉科さんの為ならなんだ?

俺は倉科さんの為と思って自分のしてることを肯定しようとしてるだけじゃないのか?
それは本当に倉科さんにとって
いい事なのか?

分からない、分からないけど

「倉科さんがどう思うかはわからないけど、
俺にとって守りたいのは倉科さんだから」
「えっ…………」
「だから何でも頼れよ?」
「ありがとうございます」
「………! この顔! すごくいい笑顔だった
から 樹さん達にもみせてやれよ?」
「はい!」


それから数週間後
また公園付近で秋月蛍と、
その恋人、立花菜奈穂さんと出会う


そこで、俺はこの世の残酷さを
知ることになる
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