嘘は取り消せない
秋月蛍は大手企業の会社の息子だった
親は厳しく、家族での唯一の味方は
兄だけだった

両親ともに跡取り息子の兄の方ばかりに
愛情を注いだ
だから秋月蛍は愛情を知らなかった

秋月蛍が小学3年生の頃両親が離婚した
父親が出ていった
だけど会社を受け継いだのは母親だった
元々、この会社は母親の家系のもの
だったから
それから、兄は母親からのプレッシャーを
感じながら生きていた
そんな中兄は秋月蛍に母親からは貰えない
愛情を分け与えた
それでもなお、母親からの愛情は秋月蛍に
注がれることは無かった
それどころか兄に関わるなとまで言ってきた
兄は謝った
兄のせいではないのに
やはり、兄の存在だけが唯一の救いだった
_______________憧れの対象だった

そのまま、秋月蛍は普通校に入学した
兄は進学校に通っている
そしてたくさん勉強した
少しでも兄の負担を減らすために
母親に認めてもらうために



そして突然届いた訃報


母親からは兄が交通事故で死んだ、と
いうことを聞かされた

その日から母親は変わった

いつもより、優しくなった
声が違う
顔も違う
触り方も違う
雰囲気も違う
何もかもが、今までの自分に向けられてきた
ものと違った
兄がいなくなって泣いていた母親が
立ち直ってくれたのは秋月蛍にとって
凄く嬉しいことだった

だけど、それは違った

中学2年生になった時に気づいた
兄が死んでから1度も自分の名前を
呼ばれてないことを



“母さん、俺の名前は?”







“璃月でしょ? 何言ってるのよ〜”





その時、秋月蛍は自分の軽率な行動が
どれだけ自分を苦しめたのか初めて知った

今までの母親はすべて嘘だった
母親の中で今でも自分は映っていなかった
母親の中に秋月蛍というものは
存在しなかった

それから、秋月蛍は父親の元へ向かった

そこでも、秋月蛍は受け入れられなかった

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