嘘は取り消せない
樹side

仕事が終わったあと桜のお見舞いに行った
するといつもいたはずの九ノ瀬君の姿が
見当たらなかった
桜が言うには今日は珍しく、九ノ瀬君は
来なかったそうだ

「今日はいつもの方こないんですね…」
「まぁ、九ノ瀬君にも用事があるんだよ」
「そうですよね……」

なんかすごく嫌な感じがするな
九ノ瀬君は大丈夫だろうか


「……っゴホッ」
すると突然桜が咳き込んだ
「桜!? 大丈夫か!」
「だ、いじょうぶです」
「そうか……」
病気のこともあって過剰に反応してしまう
「あまり無理するなよ?」
「え、あ、はい」


「あの、私って何かあったんですか?」
「へ?」
急に質問に思わず間抜けな声が出てしまった
「急にどうしたんだい?」
「え、いや、気のせいだったら
申し訳ないんですが」



「私に対して過保護すぎではないかと
思いまして………」
「あ、迷惑とかではないんですよ?」
「ただ、もっと私のこと、倉科桜のことを
知りたくて」

「迷惑だったらすみません……」
過保護、か………
「あながち間違ってないよ」
「だけど今は教えられない」
「そうですか…」

桜がどれだけ頼んでも
成瀬璃月君のこと、
秋月蛍君のこと、
余命宣告をされていたこと、
病気の再発があることは教えられない

「それは、私のことを
信用出来ないからですか?」

信用、か
俺は桜のこの顔に弱かったんだよな
でも、教えられないものは
教えられないんだよ

「信用してるとかしてないかの前に」

ただ、俺は、俺達は

「桜が傷つくのは何より嫌なんだ」

だから、理由はこれだけでいいだろ?
それだけ俺達にとって桜は大切な存在だから

「そうですか」
「あぁ、とにかく安心しろ、桜のことは
絶対守り抜いてやる」


俺は、RPGの主人公でも勇者でもない
だけど、大事な人くらい守る力は
あるはずだろ?
たとえ、明日地球が終わるとしても
俺達家族は桜のことを守るだろうな
俺は、俺に出来ることをやろう
桜が傷つかないように嘘をつき続けるんだ
桜が生まれてきた時、その小さな手を
握った時思ったんだ
だいぶ昔のことだけどしっかり覚えてる
“この子は俺が守らないと”
その時はただ戦隊ヒーローに憧れて
言っただけの言葉
今はあの時の重みが全然違う言葉

俺はRPGの主人公でも勇者でもない
だけど桜を護れるヒーローにはなれるよな?
桜のたった1人の兄として
桜のたった1つの家族の一員として
桜の人生という物語の1人の登場人物として
< 67 / 121 >

この作品をシェア

pagetop