嘘は取り消せない
湊side

今日は土曜日で珍しく部活がなかったから
朝からずっと桜姉の病院にいた
九ノ瀬さんもやっぱり来てて
「よっ、湊 部活はないのか?」
「おはようございます 今日はありません」
「おはよう、湊君」
ベッドで微笑んで迎えてくれる桜姉は
前よりもよく笑うようになった
「桜姉は何かやりたいことないの?」
「そうだな、ずっと病院じゃ
つまらないだろ?何か買ってきてやるよ」
「外でも散歩許可出てるし」
「お、じゃあ散歩するか」
「はい!」
それからパジャマは流石に嫌だと言って
上着を羽織る

「ぶかぶかですね」
「しょうがないよ、九ノ瀬さんのだから」
「悪い、それしか無かった」
わざわざ家まで行ってとってきてくれた
俺達の家より九ノ瀬さんの家の方が
圧倒的に近いから
「いえ、ありがとうございます」
ふにゃり、と効果音がつきそうなほど
いい笑顔でお礼を言う
その時に、九ノ瀬さんの頬が
ほんのり赤くなっているのを見て
微笑ましくなる
本当に好きなんだなぁ
「じゃ、行こ 桜姉」

そして外へ出て、散り終わった桜の木の下を通る
「もう全部落ちてますね」
「だな」
「でも、緑の葉が見えるのもいいですよね」
「そういや、倉科さんが生まれたのは
桜の季節だったから桜なのか?」
「桜姉は秋生まれだよ」
「え、じゃあ何で桜なんだ?」
「私も気になります」
そう言えばそうだよな
桜姉は“桜”なのに秋生まれ
みんな疑問に思うよなぁ
「確か父さんと母さんが結婚を約束したのが
桜の木の下だったらしいです」
ちなみに樹兄の“樹”は父さん達が出会ったのが
大きな樹の下だった
そして俺は結婚式を挙げたのが港の
近くだったから“湊”
“湊”(みなと)と書いて“そう”と読む
「へぇ、ちゃんと理由があったんだなぁ」
「九ノ瀬さんはどんな理由なんですか?」
「あ、俺気になる」
九ノ瀬さんの“素晴”はどう意味なんだろう
「あー俺は簡単だぞ
生まれたのがすごくいい天気だった
からからなちなみに五月晴れから
考えたらしい」
「じゃあ五月生まれですか?」
「おう!」

それからいろんな話をした
過去の話も、未来の話も

それから桜姉の異変に気づいたのは
数分後だった
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