嘘は取り消せない
それから、何も起きずに1週間が過ぎていった
もうすぐで夏が来る
うるさい蝉の声
大きな入道雲
だけど、その時、ふと嫌な予感がしたんだ

プルルルル、プルルルル_______________

自分の携帯が音を発する
「もしもし、どうしたの? 樹兄」
“桜の容態がおかしいらしい”
「え、」
“これそうならすぐ来い!”

ツー、ツー_______________

そして俺は無我夢中で走った
部活なんて放棄して
だけど、まだ子供の俺じゃ、走るのにも
限界がある
しかも、ここから病院じゃ遠すぎる
結局病院に着いたのは電話が来てから
15分後だった




「桜姉!!!」
「湊、早かったな」
「そりゃ走ったから、桜姉は?」
「今は立花先生が見てくれてる」
「父さん達は?」
「すぐ来る」
「九ノ瀬さんと……蛍さんには?」
すると樹兄は顔を俯かせた


「記憶が、戻りかけてるらしい」


「え、…………」


記憶が、戻る?
「ど、いうこと?」

「俺が聞いた電話の内容は…………………」

樹兄が話してくれた内容はこうだった

リハビリの途中だった桜姉は突然頭を抱えて
頭痛を訴えた
それでリハビリを中断し、立花先生に
見てもらった
それから数分で回復したが、またその後に
頭痛が来たらしい
あまりにも痛いらしいので立花先生が
樹兄に連絡をした
そして、樹兄が来るまでの間桜姉は病室に
看護婦さんと一緒にいた
すると寝ていたはずの桜姉が涙を流しながら
呟いた言葉


(……蛍、どこ?)
(九ノ瀬君は? 湊と、お兄ちゃんも見えない)
(璃月、先輩……)


今の桜姉なら知っているはずの無い言葉
その直後、桜姉は起き上がり
顔を覆って看護婦に話しかけたらしい
そこで異変に気づいた
桜姉の体に浮かび上がった斑点
それは明らかに病気の悪化のサインだった


そして、今、立花先生に記憶の復活と病気の
進行状況の確認をしてもらっているらしい

「でも、なんで、急に」
「蛍君にあって、記憶が蘇り始めたのか…」
「もう、分からないよ」


そこで父さん達が病室に入ってきた
樹兄が俺にしたように説明する

その中に九ノ瀬さんと蛍さんの姿はない

九ノ瀬さんは今は知らせてはいけない気が
したから
本当にただそう思っただけだけど
蛍さんに関しては桜姉の先生役で
他人のフリをしているから
ここで、すべて思い出しているところに
蛍さんを会わせては桜姉の頑張ってきた意味、
蛍さんが頑張っている意味がなくなる気がして
ただ単にそこまで頭が回らないだけかも
しれないけど




「教えてよ」
ぐるぐるにかき混ぜられた俺の心の中
そんな気持ちを嘲笑うかのように蝉の声が
だんだん大きくなっていき
静かな病室に響き渡っていた
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