黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
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蒼井さんのクリーム色の自転車の横に自分の自転車をとめて、木の陰からこっそり覗いてみると、彼女は気持ちよさそうに目を瞑りながら音楽を聴いていた。


話しかけずらいな……


蒼井さんの心地よさそうな顔を見ていると、何だか邪魔をしたくはなかった。


話しかけたくても話しかけられない状況で、どうしていいのかわからずもぞもぞしていると、突然強い風が吹いて、後ろにとめてあった自転車が二台とも勢いよく倒れた。


呆気に取られながらも、とりあえず倒れた自転車を元に戻しておそるおそる振り向くと、驚いた様子の蒼井さんとばっちり目が合った。


その瞬間頭が真っ白になり、ずっと考えていた話す内容も、さっきの強風に流されてしまったかのように頭から離れてしまった。


頭と体が固まってしまって、どうしようもできず突っ立ていると、蒼井さんが鞄から昨日と同じノートを取り出して、何か書き始めた。


【黒木君ごめんなさい。昨日居心地がすごくよかったので、また今日も来てしまいました。】


昨日と変わらず、気品のあるとても綺麗な字だ。


「全然大丈夫です。いつでも来たいときに来てください」


【ありがとうございます。】


そこから沈黙が流れる。


何しろさっきの強風で、考えていた話す内容は吹き飛んでしまったのだ。


緊張と焦りで、体から変な汗が出てくる。


【黒木君はどうして今日ここに来たんですか?何か辛いことでもあったんですか?】


そんな僕を見兼ねてか、またまた蒼井さんが助け舟を出してくれた。


「えっと……」


ただこの質問は、正直少し答えにくい。

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