黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
「僕は左なんだよね……」
すると彼女は、たぶん“じゃあここで”という意味であろうジェスチャーをして、手を合わせながら軽く会釈する。
「こちらこそありがとう。じゃあまた来週」
いつものように笑顔で手をふりながら駆け出していった彼女の後ろ姿が、だんだんと小さくなっていく。
一人になると、自分から誘っておいて何もできなかった自分の情けなさに、無性に腹が立ってきた。
怒りの中には、ふみちゃんへの申し訳なさも含まれている。
今日ほど、としのような性格になれたらと思ったことはない。
ただそんなことは自分には不可能なので、あまり考えないようにする。
物思いにふけながら自転車を片手に歩いていると、いつの間にかさっきまで遠くに見えていたビルが、目の前にそびえ立っていた。
さっき見ていたときとはガラッと印象が変わって、威圧感がもの凄い。
そこでしばらくビルを眺めていると、ある考えが頭をよぎる。
確かにゴールはまだまだ先かもしれない。
ただこのビルにたどり着いたように、一歩一歩着実に歩を重ねていけば、必ずゴールに近づいていくんだと。
そう、焦る必要はないのだ。
「一歩ずつ、一歩ずつ」
そう自分に言い聞かせるように小さく呟き、ビルから目線を前に向けて自転車に跨る。
そして目線を変えた勢いでずれてしまったメガネをかけ直し、未来への一歩を着実に、力強く踏み出す。