黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋



机の中の教科書やノートを全部リュックの中にしまい込み、最後に忘れ物がないか二度チェックして、教室を後にする。


よくとしや周りのクラスメートに、少しくらい教科書を学校に置いていくよう勧奨されるが、僕は全部持って帰らないと気が済まないタイプなので、家で勉強するという名目で煙に巻いている。


いつもなら教室と同じ階にある図書室に一回寄って帰るのだが、今日は大事な予定があるので、人でごった返していて息が詰まりそうになる階段を何とか下りきって、校舎の外に出る。


僕はとにかく人混みが苦手なので、この混雑を避けるためにほぼ毎日図書室に通っているといっても過言ではない。


外に出るなりうまく呼吸できなかった分の空気を一気に吸い込んで、少し落ち着いてきたところでふと空を見上げると、分厚い雲の隙間から太陽がひょっこり顔を覗かせていた。


朝家を出るときに母親から『今日は雨が降るよ』と忠告され、念のため折りたたみ傘をリュックに入れてきたが、この様子だと今日はリュックの中でずっと眠っているだけでよさそうだ。


少しじめじめした空気を肌に感じながら、ホームルームが終わると同時に勢いよく教室を飛び出していったとしの姿を探してみるが、辺りにそれらしき人は見当たらない。


連絡しようかどうか迷ったが、とりあえず色々な部活動が準備を始めているグラウンドまで歩み寄ってみると、ストレッチをしている陸上部の中に、なぜか一人だけ野球部が混じっていた。

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