黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
としの社交性に感心しながら、声をかけにいこうと一歩グラウンドに向かって片足を踏み出した瞬間、人見知りスイッチが作動してしまい、もう片方の足が地面に張りついてしまったかのように動かなくなってしまった。
一筋の汗が、左頬を伝う。
しばらくその状態で身動きが取れずにいると、陸上部のメンバーの一人が僕の存在に気づき、こちらを指さしながらとしに何か語りかけた。
としは僕の存在に気づくと、立ち上がって制服のズボンについた砂を取りはらい、いかにも不服そうな表情を浮かべながらこちらに駆け寄ってきた。
「遅すぎだろ!何やってたんだよ!」
「ごめん……ちょっと前からいたんだけど、声かけづらくて……」
「まったく……まあとりあえずはやく行こうぜ!やっぱり女の子を待たせるわけにはいかんでな!」
としの表情が、一瞬にして陰から陽に変わる。
よっぽど今日の“一方通行の約束”が楽しみなのだろう、今日一日中話の種はそのことで持ちきりだった。
まだ会えるかどうかもわからないというのに。