黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
「啓太が俺のこと考えてくれてるのはすごく嬉しい。でもな、もう少し素直な気持ちをぶつけてきてほしいんだ。やっぱりしっかり伝えないと今回みたいに誤解が生まれることだってあるし、啓太とはお互いが心から“心”を許しあえるような関係でいたいんだよ」
としのひと言ひと言が、僕の“心”に深く突き刺さった。
自分の中ではとしのことをわかっているつもりでいたのだが、実際は全然わかっていなかったのだ。
としがピッチャーで僕がキャッチャーだとしたら、僕はとしの球を一球も捕球することができていなかった。
僕は結局自分にとって都合のいいようにしか考えることができず、そのせいで知らず知らずのうちに相手のことを傷つけてしまっていたのだ。
何も言葉がみつからずその場でうつむいていると、としが僕の左肩に右手をかけ、さっきまでの表情とは打って変わって優しい微笑みを浮かべながら、僕に語りかけた。
「何も啓太のすべてを話してくれとは言ってないんだ。人にはそれぞれ言えないこととか話したくないことも必ずある。ただ、もし俺に何か伝えたいと思ったときには遠慮なく伝えてきてほしいんだ」
こらえていた涙が、思わずこぼれそうになる。
「……うん、本当にありがとう。それとごめんね」
としは僕の言葉を受け取ると、僕の肩を軽く二回叩き、左に九十度体の向きを変えて歩き始める。