黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
「とし!」
その瞬間、いつものように頭で考えるよりも先に、気がついたらとしの背中に呼びかけていた。
今胸の中にこみ上げてきている想いを、"今"この瞬間に彼に伝えないといけないと直感的に悟ったのだ。
としは歩みを止めて振りかえり、不思議そうな顔で僕を見つめている。
「来週としが部活がない日、一緒に帰ろう」
頭の中に浮かんできた言葉を、一言一句濁すことなく伝える。
としは一瞬驚いた表情を見せたが、それからすぐにさっきとはまた違った意味を持った微笑み(少なからず僕にはそう見えた)を浮かべながら、サムズアップした。
そのとき僕は初めて、彼の球をしっかりキャッチできたような、確かな感触を左の手のひらに感じた。
手のひらに感じた重みを握りしめ、その拳を見つめていると、突然としが僕のほうに近づいてきて、勢いよく肩を組んできた。
「今日ふみちゃんたちに会えるかな~」
まるで変なリズムの歌を唄っているかのような口調で、としがつぶやく。
さっきまで僕と話していた内容は、もう頭の隅の隅のほうに片づけてしまったみたいだ。
彼の切り替えのはやさには、いつも驚かされる。
「会えるといいね」
僕はそう小さくつぶやき、動揺を隠すためにメガネのブリッジの部分を中指で軽く押し、メガネの位置を調節する。
としがふみちゃんの話題を出すまで、話に夢中になりすぎてふみちゃんとの“一方通行の約束”をすっかり忘れてしまっていたことは、としにも、そしてもちろんふみちゃんにも内緒だ。