黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋
イヤフォンを外し、おそるおそる振り向くと、落ちた水筒を拾おうとしている女の子と目が合った。
驚きのあまり、とっさに目を逸らす。
「あっ……えっと……すみません。誰かいるなんて思わず、ついつい大声で……」
動揺しすぎて、自分でも何を言っているのかよくわからない。
するとその女の子は、鞄の中から一冊のノートを取り出して何か書き始めた。
何をしているんだろう?
緊張、焦り、不安、色んな感情が一気に押し寄せてきて、もう頭がおかしくなってしまいそうだ。
どうしていいのかわからずもぞもぞしていると、さっきまでノートに何か書いていた女の子がいつの間にか目の前にいて、そのノートを僕に見せてきた。
【全然大丈夫ですよ。私のほうこそ気持ちよく歌ってるところを邪魔しちゃってごめんなさい。】
気品にあふれた、とても綺麗な字だった。
ただ何で直接言わないんだろう?
「あの……どうして直接言わず、ノートに書いてるんですか?」
するとその女の子は、またノートに何か書き始めた。
【すみません、ちょっと事情があって話すことができないんです。】
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
「変なこと聞いてごめんなさい。僕そういうところの空気が全然読めなくて……」
【全然気にしないでください。いつも不思議がられて聞かれることなので、あなただけじゃないですよ。】
胸のつかえが少し取れる。
【そういえばお名前お聞きしてもいいですか?】
「黒木啓太といいます。松部高校の二年です」
【私は蒼井ふみといいます。彩美女学園の二年です。同学年ですね。よろしくお願いします。】
制服を見て、彩美女学園だということはすぐにわかった。
ただとても大人びていたので、まさか同学年だとは思いもしなかった。
「こちらこそよろしくお願いします」
そこから少しの間沈黙が流れる。