黒板に住む、文字で彩られた僕の初恋


だんだん遠ざかっていく蒼井さんの後ろ姿が見えなくなるのと同時に、これまでピンと張りつめていた緊張の糸が一気にほどけて、ものすごい脱力感に見舞われる。


女の子とこんなに長く話したのは初めてで、緊張で何を話したかはあまり覚えていないが、こんなにも胸が高鳴って、幸せな気持ちになれるということを初めて知った。


今日あった色んな出来事を思い返しながら空を見上げると、いつの間にか空は綺麗な夕焼けに包まれている。


僕はこの場所から見える夕焼けが、本当に大好きだ。


嫌なことなんてすぐに忘れさせてくれるし、何より穏やかで、優しい気持ちにさせてくれる。


いつもと何ら変わりない綺麗な夕焼けなのに、なぜだか今日は蒼井さんのことばかり頭に浮かんできて、夕焼けを堪能できない。


どうしてだろう?


よくわからないもやもやした気持ちでいると、ポケットで携帯が鳴り出した。


ポケットから携帯を取り出して画面を見ると、“久保田敏也”と表記されていてる。


正直蒼井さんのことで頭がいっぱいで、久保田君との約束をすっかり忘れていた。

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