堕ちる花の一片を(オチルハナノヒトヒラヲ)
「はぁ、これで私も幸せになれる。
アンタを産んだことずっと、ずーっと、後悔してた。
産んだりしなきゃよかったって」
アパートを先に出ていくお母さんが、靴を履いて振り返り私の肩をどんっと突き飛ばしてそう言った。
尻餅をついた手が痛かったこと、カラカラにいた喉がくっつきそうになったこと、それから、母の嬉しそうな笑顔、それだけを確かに覚えてる。
心の痛みというものが、うまく頭には伝わってこなかった。
ヒラヒラと、細くて昔よりか綺麗に手入れされたお母さんの手が、私の目の前で揺れて、
夏になりきれない、春の生温い風が頬を撫でた。