【完】プライドなんか知らない
自分から線を引いてしまったけれど。
傍に居ないと不安になるよ。
他の子なんかに興味を持たないで。
あたしのことだけ見ていてよ。
たたたっ
しつこい相手をなんとか振り切って屋上に出たのに、あやちゃんはそこにいない。
始業ベルが鳴るけど、もうそれどころじゃなかった。
「あやちゃん、どこ…?」
ぐるりと周囲を見渡してからあたしはたった一つだけ、確実だと思う場所をふっと思い出して、そこへ向かって走り出した。
何度も何度も躓きそうになりながら。
ガラッ
息を切らして到着したのは、音楽準備室。
ここは、ほぼ人が立ち入らなくて、あたしのお気に入りの場所だった。
それを教えたのはただ一人だけ…。
「しんじょ…?」
「はぁっはぁっ…い、た!…あやちゃん…みっけ!」
そこには、やっぱり思った通りあやちゃんが居た。
窓を開けてぼんやりとしてたのを、扉が開いたのでびっくりしたのか、こっちを向いてる。
「どしたの?もう、授業を始まってるよ?」
のんびりした口調だけど、少し拗ねたように聞こえるのは、なんでだろう?
「それは、こっちのセリフ!…なんで、居ないの?!」
「怠いし、眠いし、何よりしんじょー不足で死亡中だから…?」
小首を傾げてそう言われると、胸の真ん中が、グラグラと揺れてしまう。
「~~~~っ!もうさ、あやちゃんてば、なんなの?」
「…なにが?」
「いっつもいっつも、訳分かんないし!」
「それは、オレも」
「なんでよ?」
「しんじょーは、なんでいきなり一人になりたいなんて言ったの?」
「そ、れは…えっと…」
「ほらね?訳分かんないじゃん?オレもしんじょーが分かんないよ?」
「……だって、本当に分かんないし……」
そう言って、あたしはうなだれる。
こんなやり取りがしたいんじゃない。
ただ、普通に、今までみたいに話がしたいだけ。
なのに。
なのに…。
「そんな、泣きそうな顔して…ダメだよ?」
いつの間にか、あやちゃんがあたしの近くまで距離を縮めていて。
そっといつかみたいに髪を一房手に取った。
「思わず、抱きしめたくなっちゃうでしょ?」
「…っ?!」
「なんてね。ね、しんじょー?やっぱ、一人じゃつまんなくない?」
「う、ん…」
「じゃあさ、前みたいに戻ろ?オレもしんじょーが傍にいないとつまんないから、ね?」
その言葉に、あたしは素直にこくりと頷いた。
あやちゃんが傍に居てくれるなら、安心。
あたしの隣は、あやちゃん以外考えられない。
…って、あたし。
ほんとになんで、こんなに必死なの?