【完】プライドなんか知らない
自分にパニック Side:朱莉
あやちゃんは相変わらず、だ。
いや、前以上に献身的で、甲斐甲斐しく…そして、何よりも…。
「しんじょー。それ、オレがやったげる」
「しーんじょ。それは、オレが持ったげる」
と、謎の過保護炸裂で。
周囲の皆も、最初は驚いていたけど、今はもう日常の一コマと言った感じで見慣れてしまったよう。
逆に、何故か微笑ましい光景として見られている。
…てか、流されてる。
いや、これ、おかしくない?!
どう見たっておかしいよね?!
だって、あたしたち。
別に付き合ってるわけじゃ、ないんだよ?
それどころか、お互いの気持ちも分かんないんだよ?
挙句の果てに、あたしは自分の気持ちにも自信が持てない。
これが恋なの?
あやちゃんのことを好きってことなの?
考えれば考えるほど、ズキンズキンと頭が痛くなる。
で、結局。
答えを出せないまま、今に至る。
「しんじょー。委員会」
「はぁーい」
ぐったりとした思考回路をなんとか繋げて、叩き起こして。
あたしは、委員会に行く為に席を立った。
…はず。
だったんだけど…。
ぐらり。
目の前がやけに歪んで見えて。
あ、やばい。
倒れる…。
と、思った次の瞬間。
ぽすん
…。
あれ?
痛くない?
てか、温かい?
床に崩れ落ちてるはずのあたしを、なんてことのないように抱き止めているあやちゃんの広くて逞しい腕の中。
そこであたしは、声にならない悲鳴を上げそうになる。
とくんとくん
耳に流れ込んでくるのは、少し早めの鼓動。
それは、抱き止められた、あたしの?
それとも、あやちゃんの?
あぁ、もう、よく分かんないけど。
この温もりをずっと探してたみたいに、あたしはすっかり安心しちゃって。
そのまま、しばしの沈黙。
「…しんじょー…?大丈夫?」
「う…ん…」
そう、返しても、その後しばらく動けなかった。
本気であたし、何してんの?
何がしたいの?
こんなの。
こんなの、あたしじゃない。
こんなあたしは、全然知らない。
ただ、あやちゃんの腕の中がとても居心地良くて…。
このまま包み込まれていたいなとか思っちゃった自分がいて。
何より…そんな自分も悪くないかなとか…。
え?
そんな風に思ってる?!
自覚したら最後。
恥ずかしくて、むず痒くて。
そんでもって、凄く照れ臭くて。
あたしは、それからツンツンと。
出逢った頃以上にするようになってしまった…。