気まぐれな君は
それきり黙り込んだままの真白くんに声をかける。はっとした様子で私に笑いかけた真白くんが、なんでもない、と首を振った。
いや、どうみてもなんでもない雰囲気ではなかったんだけど。
でも、そう言われたらちょっと突っ込めなかった。大人しくそっか、と引っ込んだ私は、真白くんは、と逆に問いかけた。
「猫、飼ってるの?」
「昔俺が駄々こねて、一匹だけ。もう年寄りだから、よたよたしてるけど、元気だよ」
「へー! どんな猫ちゃん? 色とか!」
「……真っ白。真白って言うんだ」
真白?
「それって、」
「別にあだ名を付けたわけじゃなくって。まだ真白って呼ばれる前だったんだけど。だから真白って呼ばれると、時々どうしてうちの子の名前知ってるんだ、ってなる」
「そうなんだ? でもそれはそうなるわ、って私真白くんって呼んでるけどいいの?」
「都築さんはいいの。てか、じゃなきゃ俺の方から言わないし」
それもそうか。全体にも言っていたけど、それと個人的に言うのはまた違う。
それに、高校生にもなるとなんとかって呼んでくださいって言われてもどうにも躊躇ってしまう節があるし。特に異性だと尚更。
「にゃんこ可愛いよねえ。でも、ペットって言われるのは心外」
「それ分かる。ペットじゃなくて家族」
「そうそう! ちゃんと家族として見てくれる方探すのって意外と難しいんだよねえ」
「あー……何となく分かるかも。動物病院とか行くと、ね。わかるよね、そういうの」
そうそう、と思い切り頷いた。分かってくれる人が増えて私は嬉しい限りだ。
何か考え込んでいる真白くんに、今度は私は声をかけずに待ってみる。猫の真白、くんか分からないけれど真白くんが、なるべく長生きしてくれるといいなあと思いながら。きっと真白くんはいい家族なんだろうな。
「……ねえ、俺も手伝っていいかな?」
「え?」
「その、猫の貰い手探すのとか。俺も、なんかできないかなとは思ってたんだ。よかったら、手伝わせてほしいんだけど……」
「それは助かる!」
里親探しは人手が多い方が確立が上がるから。
よろしくね、と言うと、真白くんが嬉しそうに頷いた。そういえば、どうして真白くんがあんな顔してたのかは分からないままだけど、それでもいいかと何となく思った。