気まぐれな君は
いや、正直そういう顔をしたいのは私の方だ。私というか、多分教室中の総意だと思うのだけれど。
と、その直後に弾けるような笑い声がした。
「真白お前最高かっ!」
「ぶれねえー!」
「後ろから入ってこいよ!」
知り合い、だろうか。
きょとん、としたままその真白、と呼ばれた少年が席に座るのを目で追う。のだが、椅子を引いたのは私の右隣。そこに書いてある名前は、白川真空。
不思議に思って覗き込んでいると、どうしたの、と件の少年から声をかけられた。
「つづき、さん?」
「え? あ、っと、ごめんなさい」
「俺、白川真空! 真白って呼ばれてるから、真白って呼んで!」
「……真白、くん?」
唐突だな、この子。なんて言うか、我が道を行く感じがする。
苦笑をしていた目の前の担任が、じゃあ、と手を叩いた。真白くん、のせいでざわめいていた教室中が静まり返る。ひょい、と担任に視線を向けた真白くんが、こてんと首を倒した。
あ、きっと分かっていない。面白いなあ、と思いながらこっそりと真白くんを観察する。こういう子、嫌いじゃない。寧ろ観察対象としては面白そう。
観察するのが趣味、というわけではないけど。何か気になる子だなあ、と思って。
「とりあえず、自己紹介しますね。皆さんには明日のホームルームで自己紹介してもらいますから。改めまして、中原月子です。今日から少なくとも一年間、よろしくお願いします」
「せんせー歳はー?」
「……はい、どのクラスにもやんちゃな子がいるみたいですが、黙秘権を行使させていただきますねー」
優しそうな、という印象はちょっと前言撤回しようと思う。絞めるところは絞めそうだ。
先生の発言に笑い声が漏れ聞こえる。にこにこしながら自分のカバンを漁っている真白くんは、果たして話を聞いているのだろうか。真白くん、と小さく呼びかけると、なあに、とのんびりした声が返ってきた。
「……いや、やっぱり何でもないや」
初対面で、しかも先生の真ん前の席でやることじゃないような気がして、やめた。流石に聞いていると思う。真ん前だし。
視線を前に戻すと、副担任の先生の挨拶があった後、十時からの入学式に合わせて体育館前に移動。出席番号順に並ぶから、真白くんとは離れることになる。特に何事もなく入学式が終わり、教室で先生の説明を聞いて解散になる前に、真白くんに呼び止められた。