気まぐれな君は
了解、と敬礼をすると、二人が小さく笑った。駅まで送る、と立ち上がった柳くんを断る理由はなかったため、大人しく送られることにする。玄関まで見送ってくれた真白くんに手を振って別れると、真白くんが家の中に入るのを見届けてから私は駅へと歩き出した。
考えてみれば、柳くんと二人きりになることはほとんどない。並んで歩いていると置いていかれることがないことに気付いて、結構優しいんだよなあと改めて思う。
言葉は雑で分かりにくかったりするけど、不器用な優しさが垣間見える。だから真白くんとも一緒にいられるんだろうな、と思いながら無言で歩いていると、都築さん、と名前を呼ばれて隣の顔を見上げた。
「本当に、ありがとな」
茶化すでも、冗談みたいな言い方でもなく、本当に真面目に紡がれた感謝の言葉に、きゅっと唇を結ぶ。俺さ、と私に視線を合わせないまま、言葉を続ける柳くんに、私も視線を落として歩みは止めない。
「ずっとひとりで真白のこと支えてきたんだ。学校でもさ、俺以外真白の事情知ってるのはいなかったから。先生たちは知ってたけど、それとはまた違うだろ。昨日真白が言ってたけど、確かにあいつ元々身体丈夫じゃなかったからよく体育とか休んでたし、休み時間もほとんど外で遊んだりしなかったし。だからそこはごまかしやすかったけど、でもそれだけじゃごまかしようもねえし」
いきなり体育の授業に一切参加しなくなった真白くんに、年頃の子供たちの興味が向くのは当たり前だった。
「真白は昔から気まぐれで、よく分かんないやつってのが周りの認識だったし、ごまかすのはそんな苦労しなかったけど。最初のうちは男子と一緒になってはしゃいだりして、発作起こしたの隠すのが一番大変だったな。今じゃそんなこともねーけど」
でもさ、一人でって、結構辛いもんなんだよな。
そうか、と今更気付く。二人で、と思っていたけれど、真白くんは真白くんで一人だし、柳くんは柳くんで一人なのだ。真白くんの病気、背負う大きなものは一緒でも、二人それぞれで役割は違うのだから。
「だから、都築さんがいてくれると、俺もちょっと心強い。正直真白がどうしてここまで都築さんに構うのか分かんなかったけど、多分本能みたいなとこで分かってたんだろうな」
もう、駅には着いていた。
私にできることなんてほんの少ししかないけれど、その少しが二人を少しでも助けているのだと、自惚れてもいいだろうか。
気を付けて帰れよ、と明るく言った柳くんに、ありがとうと送ってくれたお礼を言って改札を通る。まだ見送ってくれている柳くんに手を振って、私はホームへ続く階段を駆け上がった。