気まぐれな君は


「そんなに見てない?」

「見てないよー。機会ないもん、こっちでやってるのは知ってたけど来られなかったし」

「まあ俺等も地元でやってなきゃ来なかったな」


我が意を得たりと頷く若葉に、その場合は手持ち花火だねと真白くんが弾んだ声で言った。あー確かに、とそれに同意する若葉、去年息抜きだと言って部活メンバーを誘って手持ち花火大会を開催した記憶がある。


気付けば、花火まであと三分を切っていた。


自然と会話が途切れて、人工の光の影響がない空を見上げる。もう大分暗くなった空には、ちらほらと星が見えていた。


いつも見ている星空より、綺麗だ。光の影響を受けずに見える自然そのものの空は広くて、暗くて、綺麗で。


と。


どおん、と大きな音がして打ち上げられた花火に、私は息を呑んだ。


夜空に輝く大輪の花、なんてよく言うけれど、花火は綺麗だといつみても思う。黄色、緑、青、赤、色とりどりの花が真っ暗な空に映えて、胸に直接響く音の大きさに息が詰まる。


「きれい……」


小さな呟きは、誰にも拾われることなく宙に消えた。


地面に着いていた手に、誰かの手が重なるのが分かる。手の主を辿ると、案の定真白くん。交わらない視線は空をじっと見つめていて、その真剣な表情に唇を噛み締めた。


真白くんは、あと何度この花火を見られるのだろう。


考えて、考えても仕方ないことに気付いて、途中でやめる。その間にもいくつも打ち上げられていく花火が、私の雑念を掻き消していく。


だからきっと反応が遅れた。私が気付くべきだったのに、気にしていたのに、すぐに反応できなかった。


心臓を押さえながらゆっくりと倒れていく真白くんに、私は違う意味で息を呑んだ。


「……真白? 真白!?」

「真白く……っ」

「え、……え?」

「都築さん救急車!」

「っ、うん、っ」


私と柳くんの声に、真白くんは反応しない。失神してるんだ、思い至って、柳くんに指示されるなり私は震える指で一一九番をタップした。


待って。待ってよ、真白くん。


『……火事ですか、救急ですか』

「っ救急ですっ! 場所はっ」


電話の向こう側へ向かって、私は半ば叫ぶように助けを求めた。


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