気まぐれな君は
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柳くんから搬送された病院を聞いて、私は翌日、一人で真白くんのところに足を運んでいた。
リノリウムの床が、歩く度にきゅきゅっと音を立てる。明るい雰囲気の病棟に、真白くんがいるなんて信じたくなかった。昨日までは一緒に、確かに隣にいたのに、急にとても遠くに行ってしまった気分だった。
真白くんが倒れた後、私と柳くんができることをして、と言っても大したことはできないんだけれど。真白くんの家が近かったため、ご両親に連絡を取って来てもらい、到着した救急車にはお母さんが乗っていった。車を回したお父さんが顔見知りである柳くんは連れて行ったけれど、女の子を連れ回せないと言って私は若葉を連れて家に帰るしかなかった。
若葉に、詳しい事情は話していない。何も訊いてこないから、訊いちゃいけないことは何となく勘付いているのだろう。私から言えることはないし、柳くんにも若葉のフォローは頼まれていたことだったから。
若葉を家に送るついでに着替えて、若葉のお母さんに家に送ってもらった時にはもう疲れ切っていた。気付けばもう十時を回りそうな勢いで、何とか踏ん張って風呂に入って。お姉ちゃんの顔を見るなり安心してしまって、ちょっとだけ泣いたのは内緒だ。
大丈夫だ、という報告は一緒に病院に向かった柳くんから聞いている。それでも、自分の目で見ないと不安で不安で仕方なかった。
光に照らされて見えた、血の気の引いて真っ白な顔を思い出す。固く閉じられた瞳と、汗ばんでいたのに冷たかった手。泣くのを我慢しながら何度も呼んだ名前には反応はなくて、気付けなかった自分が一番許せなかった。
受付で聞いた病室の前に立つと、私はノックしようとして、その手をそっと下ろす。本当に、大丈夫なのだろうか。それを確かめに来たのに、ドアの向こう側にいるのに、声を掛けるのが怖い。
「────都築さん」
唐突に、横から聞こえてきた自分の名前に、私ははっとして顔を上げた。
「やっぱり、いた。……大丈夫だよ、都築さん」
困ったように笑った、柳くんが立っていた。私に言い聞かせるように言うと、柳くんは私の隣に来る。ほら、と優しく促されてこんこん、と小さくドアをノックすると、中からはぁいという小さな声が返ってきた。
「真白、入るぞ」
「あ、冬馬くん。いつもありがとう、」