気まぐれな君は
ぱたり、と零れた涙には気付かないふり。泣かないって、決めたのに。そのために昨日お姉ちゃんの前で泣いたのに、私は。
だって、安心したんだ。昨日の死にそうな様子を見ていたから、どうにも不安で。確かに以前も一度倒れかけたところは見たけれど、意識まで失ってしまう場面を見るのは初めてで。でも、初めてなんて言っている場合でもなくて。
ずっと気を張っていた。もし、真白くんに何かあったらって。顔を見るまで不安だった。だから緊張の糸が途切れた。
「……都築さん」
真白くんのお母さんに優しく名前を呼ばれて、慌てて涙を拭う。はい、と応えた声が掠れているのは許してほしい。顔を上げた私にお母さんはありがとう、ともう一度声を掛けてから、少しお話しできるかな、と私をデイルームへと誘った。
断る理由もなく、私はこくりと頷く。立ち上がると、ひらひらと手を振る柳くんに見送られた。真白くんが起きる気配は、ない。
少し離れた場所にあったデイルームは日当たりのいい場所で、窓からは辺りの景色が一望できた。自販機でミルクティーを日本買ったお母さんが、一本私に手渡してくれる。素直にそれを受け取ると、先に椅子に座ったお母さんが私にも向かいの席を促してきた。
「真空からよく聞いてたの。クラスメイトに仲のいい女の子がいて、病気の事を話したら受けとめてくれたんだって。ずっと話したかったんだけど、こんな時になっちゃってごめんね」
「……いえ」
真白くん、私のこと、話してたんだ。確かに、病気のことまで共有しているから、当たり前っちゃ当たり前なのかもしれないけれど。
手もとの缶をくるくると回しながら、真白くんのお母さんは遠い目をした。小さく笑うと、ねえ都築さん、と私の名前を呼んでくる。すいっとお母さんに視線を送ると、彼女は諦めたような、疲れたような笑みを見せた。
「初対面でこんな話するの、多分間違っているのかもしれないけど。……私と真空って、似てないでしょう」
唐突な言葉に、反応が遅れた。確かに、似ているとはとても言えない、と思った。昨日少しだけ見た真白くんのお父さんとも、あまり似ていないな、と。でも暗い中でちらっとしか見えていなかったから、そこまで気にはしていなかった。
でも、そういう訊き方をしてくるということは、何かあることはもう必至だ。
「真空はね、養子なの。孤児だった真空を、まだ小さい頃に私たち夫婦が引き取った。子供ができなかった私たちがね。……真空自身も、冬馬くんも、知ってることよ」