気まぐれな君は
まさか、なんて言えなかった。まるで、真白くんを、お母さんを否定する言葉みたいに思えたから。
結局何も言えない私は、視線を落として黙ることしかできない。突然言われても困るよね、と困ったような笑顔を見せているお母さんを直視することも出来ない。
「ごめんね。なんか、都築さんになら言えると思っちゃった。突然こんなこと聞かされても困ったよね。ごめんなさい」
「あ、のっ」
それでも、何か言わなきゃ、と思って。よく分からないなりに、分からなくても、これだけは伝えなきゃと思って。
「真白くん、きっとお母さんたちのこと、本当のご両親だと思ってると思います」
真白くんからご両親の話を聞くことは、割と多かった。その度に仲のいい家族だな、と思っていたのは、決して嘘なんかではない。それに、これを私が言うのはもしかしたら間違っているかもしれないけれど、
「お父さんとお母さんからの遺伝は絶対にないから、二人が元気でいてくれてよかった、って」
心筋症の原因に遺伝の可能性がある、というのは初めて聞いた時に調べたから知っていた。だから子に病気が見つかったら親も、親に病気が見つかったら子も検査するのだということは、途中で真白くんから聞いて知っていた。
その時に、言っていたのだ。絶対、と言い切った真白くんが少し謎ではあったけれど、きっと検査をした結果なんだろうと思って気に留めていなかった。でも実際は、血が繋がっていないから遺伝もない、ということだったのか。
あの時、ああ言った真白くんの気持ちを考えて、少し辛くなった。きっと、心からの本音。それが漏れてしまっただけ、今更気付くなんて遅いかもしれないけれど、ちゃんと気付けてよかったとも思って。
目の前で静かに泣くお母さんに一礼すると、私は真白くんの病室に戻った。
「あ、戻ったんだな」
「うん。……真白くんは?」
「起きねえよ。……帰るか?」
「……ううん。真白くんが目を覚ますまで、いてもいいかな」
いいんじゃねえの、とぶっきらぼうに言った柳くんが、病室の隅っこにある椅子に腰を下ろす。真白くんの傍を譲ってくれたことに気付いて、ありがとう、と小さく落とした。素直に真白くんの傍に座って、その手に自分の手をそっと重ねる。缶ジュースを握っていたせいで冷たくなっていた私の手に、真白くんの体温は幾分か温かかった。
「……都築さんは悪くねえからな。勿論俺も、そんで真白も」