気まぐれな君は
「……そうか」
驚かない柳くんは、きっとそれも想像していたのだろう。
「もう少し先だと思ってたけど、案外早かったな」
そう言って笑った柳くんは、やっぱり都築さんはすげえよ、と何度か言われたことのある言葉をまた口にした。
それきり続かなくなった会話に、病室の中はしんと静まり返る。ぽつりぽつりと、昨日の搬送された後のことを訊いたり、若葉のことを伝えたりしつつ、時間が過ぎるのを待つ。私が病院に来たのが三時過ぎ、五時を回ったところで、柳くんがすっと立ち上がった。
「ちょっと飲みもん買いにコンビニ行ってくるわ。なんか欲しいもんあるか?」
「……いや、いらない。いってらっしゃい」
「おう、いってくる」
柳くんを見送ると、部屋には私と真白くんの二人きり。五階のこの場所からコンビニまでは多少距離があるから、戻るには少し時間がかかるだろう。
「……真白くん」
そっと、その名前を口にする。躊躇いがちに、それでも確かに。
名前を呼ぶと、振り返ってくれる真白くんが恋しい。どうしたの、と目を細めて首を傾げる真白くんが。
「……真白、くん」
もう、自分を責めはしないけれど。その代わり、こうして名前を呼ぶことくらいは許してほしいなあ、と。
「……つ、づき、さん」
唐突に聞こえた、名前を呼んでほしいと思ったばかりの本人から名前を呼ばれて、私の脳は思考を止めた。
「ごめ、んね」
「ま、しろく……?」
「それから、ありがとう」
ぱたり、と涙が零れ落ちた。嗚呼、真白くんの前では泣かないと、思っていたのに。
どうにも涙腺が緩いなあと思いながら、私は真白くんの手を抱き込んで堪えきれなくなった涙を零す。普通に手を動かせる真白くんが、空いている片方の手で頭を撫でるから余計に涙は止まらなくて。
よかった。……よかった。
真白くんが、無事で。ちゃんと生きていて、こうして言葉を交わすことができて、本当に良かった。
「よかった……っ」
わんわんと泣き出した私に、困ったような真白くんの手が宥めるように背中を撫でる。その温もりに更に安心した私は、コンビニから柳くんが戻ってくるまで泣き続けた。