気まぐれな君は
「……ありがとう」
真白くんと一緒に子猫を覗き込んでいた柳くんに、使ったタオルの確認を取る。柳くんの返答に、少し汚れたタオルで段ボールを覆うと、私は一息吐いた。
初めてではないにしろ、慣れることはない。今回だって、いつから捨てられていたのか分からないけれど、段ボールの方巣からして今日昨日、なんてことはなさそうだ。もっと早く気付ければ他の子も助かったかもしれないのに、現実はそううまくはいかない。
「都築さん、ありがとう」
しゃがみこんで俯いた私を、真白くんが覗き込んできた。そっと視線を外されて追うと、タオルに覆われた段ボール。言いたいことを悟って頷くと、真白くんは胸元の子猫をタオルの上からそっと撫でた。
「この子が無事でよかった」
ちょっと冷たいかもしれないけど、そう言った真白くんにこくりと頷く。よいしょ、とアスファルトの道路の上に座り込んだ真白くんの隣に、私もちょこんと腰を下ろした。
全部助けるなんて、実際問題無理なことはこんなことをしていればよく分かる。だから、助かった命を喜ぶしかない。慣れることはなくとも、そうしなければ潰れてしまうのは私たちの方だ。
「……君は綺麗な白猫だね、きっと」
みゅう、と子猫が鳴く。
「うーん、そうか、君は女の子なのか」
みゅう、とまた子猫が鳴く。
「じゃあ、君の名前は真雪、だね」
みゅう、と三度鳴いた子猫に、私は驚きながら真白くんを見た。
言葉なんて通じていないはずなのに、まるで会話をしているみたいだ。私たちの前にたって通行人から遮ってくれている柳くんも、目を丸くしている。そんな私たちに構うことなく、真白くんは私を見ると小さく笑った。
「この子、俺が引き取るよ」
そりゃあ、名前まで付けておいてよろしくなんて言われても困ると言えば困るのだけれど。
「……真白くん、猫と話せるの?」
恐る恐る問うた私に、真白くんは一瞬きょとんとした表情をした後、すぐにその理由に思い至ったらしくくすくすと笑い始めた。
「いや、流石に猫の言葉は分からないよ」
だよね、と納得して、タオルに隠れる子猫の様子をそっと窺う。震えは少し治まったけれど、なんにせよ病院には一度連れて行かなければならない。