気まぐれな君は
「してくれるよ。というか、名前みんな『真』がつくんだね」
「あ、それね。うん、……まあ、なんとなく」
何故か濁した真白くんに、私は首を傾げる。別に、深い意味があって指摘したわけではないんだけど、何かあるのかもしれない。
それにしても、と微妙な空気を読んだのか、お母さんがふと声を上げた。ミラー越しに真白くんをちらっと見たお母さんは、すぐに視線を前に戻す。
「真白って名前、珍しいね」
「お母さん、真白くん、真白って名前じゃないって。あだ名だってば」
「あれ、そうだったっけ。で、名前は?」
「白川、真空です。……あ、」
真白くんが何か言いかけて、止まる。ぐっと引き結んだ唇に、言いかけの言葉が紡がれないことを知って。
「まそら?」
驚いたように声を上げたお母さんに、私は首を傾げてお母さんを見た。
「どうしたの?」
じっと、後ろの真白くんがお母さんを見る。その視線に、読み切れない感情を察して私は戸惑ってしまう。真白くんの隣に座る柳くんもそれは同じようで、車内は困惑に包まれていた。
真白くんの視線は、どこか寂しそうで、悲しそうで、でも嬉しそうでもあって。一つ言えるのは、友達、と言っていいのかは分からないけれど、同級生のお母さんに向ける視線じゃないということだ。
「真空に真白なんて、昔飼ってた猫と同じ名前」
赤信号でブレーキを踏んだお母さんが、後ろの真白くんを覗き込んだ。私は聞いたこことがない名前。きっと私の生まれる前だろうと当たりをつけて、信号が青に変わったことをお母さんに伝える。
まあ、ただの偶然だろう。────そう片付けるには、真白くんの視線が意味深すぎた。
「まさか君、生まれ変わりだったりして」
「……って、そんなわけないじゃないですかー!」
「だよねー! いやいや、偶然ってすごいね、いっそ奇跡じゃないのこれ」
「まあ本名が真空であくまで真白はあだ名ですけど、二匹ともいたんですか?」
「そうそう、まだ私が子供の頃の子が真空くんで、大人になってからお兄ちゃんが拾ってきた猫に真白ってつけてたんだよねえ」
「もしかして、真っ白だったから?」
「そうそう! 安直すぎるって言ったんだけどさ!」