気まぐれな君は
「俺もこの間まで真白って猫飼ってたんですけど、白かったから真白って名前を付けたのは俺でした」
「うちのお兄ちゃんと負けず劣らずなんじゃないの、えーと、白川くん? その子も真雪ちゃんって、」
「……まあ、白いからですね。というか、真白でいいです」
「じゃあ真白くんで。やっぱり安直だなあ」
ぽんぽんと交わされる会話に、正直視線の意味とかどうでもよくなってしまった。
前々から、お母さんと真白くんはあったら話が止まらなさそうだなとは思っていたけれど、本当にそうなるとは。普通同級生のお母さんとこんなに話なんて弾むものなのか。よく分からないけど、柳くんが若干引いているのが見えたので多分違うと察する。
私の基準だとおかしいことが多々あるので。それに気付いたのは中学生の時だ。気付いたというよりは若葉に指摘されたという方が正しいのだが。
「あ、そうだ、真白くん、猫飼ってたってことは一通りは揃ってるんだよね?」
「はい。元々保護された子がいたら引き取るつもりだったので、処分してませんし」
「それは雫から聞いてた。なら大丈夫かな、扱いもうまそうだし。……そうだ、真白くんに柳くん、いつもホームページとか手伝ってくれてありがとう」
自宅に着くと、ふと思い出したようにお母さんが二人に笑いかけた。好きでやってるので、とにこやかに返す真白くんと、困惑顔で頭を下げる柳くん。リビングに通そうとしたのを断られたため玄関先で二人と物を取りに行ったお母さんを待ちながら、私は真雪ちゃんの顔を覗き込んだ。
「真っ白だね、真雪ちゃん」
まるで白くんみたいだ。
病院で軽く洗ってもらった真雪ちゃんは、真白くんが言っていた通り真っ白な毛並みをしていた。今は真っ白な尻尾をくるんと丸めて自分の足の間に顔を突っ込んですぴすぴ寝ている。可愛い、と表情を崩す真白くんは親ばかだなあと思いながらも、人のことを言っていられない私は黙って見守ることにした。
「真白くん、はいこれ注射器。当然針はついてないからね」
「分かってますって、というか持ってたら問題ですよね」
「普通はないね。それから、これは二人にお手伝いのお礼」
たまたまこの間貰った焼き菓子やせんべいなど数種類、小さめのビニール袋いっぱいに持ってきたお母さんは、それを二人に押し付けると車に乗り込んだ。断るタイミングを逃した二人が、困ったように顔を見合わせるのを見てもらって、と声を掛ける。今更断れまい。
大人しくお母さんにお礼を言った二人と一匹と一緒に車に乗ると、お母さんは二人に道を聞きながら車を走らせた。