気まぐれな君は
段ボールにはタオルの上に少し古びた様子の毛布が敷いてある。そこにぱたん、と横たわって丸くなる真雪ちゃん。可愛い。眼福である。来てよかった。
言葉を失って手で口を覆った私に、隣で一緒に覗き込んだ真白くんが苦笑した。
「写真撮ってもよかったんだろうけど、回復中だし一応やめておいた方がいいかなって思って撮ってないんだ。そろそろベストショット狙っていこうかな、ってところ。それに、折角なら直接見たいかなと思って」
「その通りです! 真白くんありがとう!」
「どういたしまして」
音にびっくりする猫は少なくはない。カメラの音くらいなら大丈夫だろうが、衰弱していた子猫に余計な負担は掛けたくなかったのだろう。
その場を離れていく真白くんそっちのけで、段ボールの前にぺたんと座り込む。そおっと子猫の柔らかい毛並みに指を滑らせると、ふわふわした毛が指先をくすぐった。
「……っ!」
「都築さん、だらしない顔になってる」
「だってっ! 真雪ちゃん可愛い!」
「確かに可愛いな」
子猫を見るのは久しぶりだ、と隣に来た柳くんが真雪ちゃんを覗き込んだ。もぞもぞと時折動くものの、起きる様子はない。
暫くの間ただ眺めて、音をたてないように気を付けながら立ち上がると後ろのテーブルに真白くんと柳くん、お母さんが座って私を見ていた。見られていたことに驚いて恥ずかしくなってしまう。こっちどうぞ、と真白くんの隣の席を示され、大人しく腰を下ろした私は出されたカップに手を付けた。
「本当に猫が好きなんだね、都築さん」
「昔っから、それが当たり前だったので……それに、あんなに衰弱してたのに元気になったみたいだし、安心して」
声も出ない程に衰弱していた、道路脇に捨てられていた子猫たち。四匹いて助かったのはこの子だけ、それも結構危ない状態だったところを私は見ている。
カップに入った紅茶のゆらゆらと揺れる水面を見つめながら、小さく笑う。差し出された、私の持ってきたクッキーを一つ抓んだ。きっと、真雪ちゃんは真白くんに拾われて幸せになれるはずだ。────真白くんだから。
ふと、立ち上がった真白くんがリビングから消える。無言になった空間に少し気まずい思いを抱えながら視線を巡らせると、テレビの横に見つけた白くんの写真に気付いた。
「嗚呼、真白?」