気まぐれな君は
「あいつは優しいから、自分のことそっちのけでおじさんとおばさんのことを心配してる。でも、何よりも、忘れられることを怖がってんだ……だから、猫を飼えばあいつが死んでも生きてるから、忘れないだろって、」
「冬馬黙って」
いつから聞いていたのか、リビングの入口には真白くんがいた。
真白くんが、きっと柳くんを睨む。その手にはアルバムらしきもの。表紙に真白、と書いてあるのを見て、白くんのものだということに気付くがそれどころではない。
「黙っててって言ったじゃん」
「俺、分かったとは言ったけど黙ってるとは言ってねえから」
「……冬馬のバカ」
「バカで結構だ。お前が我慢するくらいならな」
私は一体、ここにいていいのか。
斜め向かいに座る真白くんのお母さんが、目に涙を浮かばせているのが分かった。真白くんも柳くんも、それに気付いてはいない。気付かないままに、お互い言葉を投げ合っている。
「お前はいつもそうだ。自分のことなんてどうでもいいみたいに。周りがどう思ってんのか分かってんのか」
「分かってるよ分かってるからでしょ。俺が死んで悲しむ人がいることくらいよく分かってるよ。血ぃ繋がってないのにここまでしてくれる父さんと母さんがいる時点でそんなの分かりきったことだろ、第一忘れて欲しくて真雪を飼い出したなんて俺一言も、っ」
「言ってなくても分かるに決まってんだろ!? 何年一緒にいると思ってんだよこのバカ! おめえは懐に入れた人に対して優し過ぎんだよ! それを俺らがどう思ってんのか、お前はちゃんと理解してねえんだよ分かれよ!」
「はあ!? 分かってるってさっきから、」
「怖いなら怖いって言えバカ! 死にたくねえならそう言え! 何そんな一人でもう全部受け入れてますよ、大丈夫ですよ、なんて顔してんだよアホかマジ! 全部わかってんだよ、なのにごまかされる俺らの気持ちわかってるって言えんのかよ!?」
「……っ」
真白くんが、黙る。柳くんも、黙る。
誰も何も言えない空間。さっきの比ではないほどの。それでもこの沈黙が必要なことは分かる。だから私は口を挟まないし、ただ見守っていることしか、出来ない。
私はあくまでも途中から入っただけの、部外者に一番近い立ち位置に過ぎないのだから。
黙ったままの真白くんが、そっと段ボールに近づいて中を覗き込んだ。みゅう、と声がする。真雪ちゃんが起きたことに気付いて、真白くんがその小さな体をそっと抱き上げる。