気まぐれな君は
「……い、よ」
掠れた、小さな声。その声が震えていることに気付いたけれど、やっぱり私は黙ったまま。
「怖いに、決まってるじゃん……折角、折角願いが叶ったっていうのに、俺の身体は弱いままで……父さんにも母さんにも迷惑かけて、冬馬にも、挙句都築さんも巻き込んで……っ!」
「それで」
「っ、死にたくないに決まってんじゃんバカ冬馬! 俺だってもっともっと生きたいに決まってんじゃん、てか死にたいわけないじゃん! なのになんで俺は! ずっとずっと身体なんて弱いままで! 今度こそもっともっと生きられると思ってたのに案の定! なんなんだよ何で、っなんでぼくばっかり……っ」
みゅう、と慰めるように真雪ちゃんが鳴いた。ぱたりぱたりと零れ落ちる涙が、真雪ちゃんの真っ白い毛に埋もれていく。ぐいぐいと涙を拭う真白くんがくそ、と悪態をついて、とんっと柳くんの肩を軽く叩いた。
「冬馬のバカ、俺ずっと我慢してたのに何言わせてんだよ……っ! そうだよその通りだよ、忘れられんのがこえーから真雪を、育てようって、だってきっと真雪は俺より長生きするから、そうしたらみんな真雪見て俺のこと思い出してくれんだろ、ってっ!」
忘れるとか忘れない以前の問題は分かってる、けど、ぼくは。
小さく零れた囁き声は、静かな空間には十分な声量だった。
真白くんのお母さんが、ゆっくりと真白くんを抱き締める。真雪ちゃんを気にしながら、真白くんがお母さんの肩に顔を埋めた。聞こえてくる嗚咽と真雪ちゃんの鳴き声に、涙を誘われて。真白くん、と呼びかけた私の声は、酷く濡れていた。
「話してくれてありがとう、言ってくれてありがとう、私も入れてくれてありがとう。私、真白くんたちに巻き込まれたんじゃないよ、自分から巻き込まれに行ったんだ。だから巻き込んだなんて言わないでよ、……わたしならいいって、思ってくれてたんでしょう……?」
前に、そう言っていたよね。都築さんなら、って。私はその言葉を信じて、今こうしてこの場にいる。
「絶対に、忘れないから。真白くんのことなんて、嫌って言われても忘れてなんてあげない」
だって、だって。
私の名前を呼ぶその声も。楽しそうにころころと笑うその笑顔も。優しげに真雪ちゃんを撫でていたその顔も。気まぐれで自分のペースを崩さないところも。どんな時でも、ひとの心配ばかりしているところも。
私は、真白くんが好きなんだ。