気まぐれな君は


いつも食事制限について訊くのを忘れるので、今回はどうしようと思った結果。入院前に読みたい小説があると離していたのを思い出し、買った記憶があったため本棚を漁ったらどんぴしゃ。少し埃をかぶっていた小説を引っ張り出してきて数冊持ってきたのだ。


柳くんがいつもノートのコピーを持ってきているんだけど、今回は私が代わりに持ってくることになった。柳くんも来るけれど、私が柳くんに頼んだのだ。コピー代のこともあるし、と。


猫のことでお世話になっているお陰で、真白くんと柳くんのことは我が家では周知されている。お姉ちゃんなんてどこで気付いたのか、私が真白くんを好きだということも知っている。


自覚した気持ちはもう止められないのだということを、私は知ることになった。


それでも、私は真白くんを好きでいることに自信が持てないでいる。だって、真白くんは。初恋は叶わないというし、今まで碌に恋愛をしたことがない私にとって真白くんという存在は自分の中でどう扱っていいのか分からない存在なのだ。好きなのは、分かったけれど。じゃあその先、どうしたらいいのか私にはよく分からない。


付き合うって、どういうことなんだろう。私が分からないのは、そこだ。


私と真白くんの関係に、名前を付ける。今はただの友達になるのか、部活仲間なのか、クラスメートなのか。そうではなくて、彼氏彼女という名前がちゃんとつく。それってどういうことなのだろう、と。


だから、私は告白しようとか考えられなかった。傍にいて、たくさん話をして、一緒に泣いたり笑ったりできればそれでいいんだと。名前なんて付けなくても、それはできることだ。


もっとも、真白くんがどうかなんて分からないけれど。関係が崩れてしまうのも嫌だから、関係に名前を付けたいと思わないこともあるかもしれない。


「都築さん、ちょっと歩かない?」

「え、歩いていいの?」

「ちょっとだけ! すぐそこのデイルームまで!」


デイルームなんてあったか、と思いながら、お母さんに視線を向けると仕方なさそうに頷かれた。いいの、だろうか。真白くんがいいと言っているのならいいのか。


よいしょ、とベッドを降りる真白くんの身体がふらつく。慌ててその腕を支えると、真白くんがふにゃんと笑った。


「ごめんありがとう。どうにも筋力低下が著しくて」

「ずっと寝てるの? 安静?」

「うん。心臓に負担かけちゃいけないからさ。でもそろそろリハビリしてもいい頃かなって、先生が」


なら、歩いてもいいのか。


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