気まぐれな君は
納得して、点滴台を杖代わりにする真白くんの隣をいつでも支えられるように気を付けながら歩く。お母さんは着いてこないから、二人にしてくれたのだろう。気づかいに赤くなりそうになりながら直ぐだと言ったデイルームに辿り着くと、窓際のソファに座った真白くんに窓の外を示された。
「うわあ」
「綺麗でしょー? 今日都築さん来るって言ってたから、雨降って散らないように祈ってたんだ」
「え、ほんとすごい」
少し離れた病院の外の敷地。ピンク色がゆらゆらと風に揺れているのが、はっきりと見える。コスモスだ、視界いっぱいのピンク色は殺風景な建物やアスファルトの地面を目立たないようにわあっと咲いていて。
こんな景色、早々見られるものではない。すごい、とテンションの上がる私に、真白くんは面白そうに笑った。
「そんなに喜ぶもの?」
「え、だってこんなの早々見られないよ? めっちゃきれい凄い。病院凄い」
「ふっ! 確かに、高いところからなんてあんまり見らんないけどさ!」
「えーすごいね! すごい。真白くんありがとう!」
「元気出た!」
「出た出た! ……え?」
興奮して窓の外ばかりに向けていた視線を、真白くんに戻した。優しそうに笑う真白くんが、だって、と私の顔を指さす。何事かと思って思わず頬に手を当てた私に。
「何となく元気なさそうだなって思った、から」
泣きそうに、なった。
元気なさそうだったの、ばれてたんだ。だって真白くんがいないんだもん、当たり前に決まってるじゃないか。私は会いたいのに、真白くんの傍にいて支えたいと思うのに、それができる立ち位置にいない。
それって、結構辛いことだと知った。あれから、真白くんの弱音は聞いていない。元々言う人ではないことは分かっていたけれど、私はちゃんと真白くんの支えに、真白くんにとっての必要な人になれているのかな。
「……真白くんが、心配だったから、かな」
少し、言葉を濁して。そう笑顔で言い切った私に、真白くんがありがとうと笑う。真白くんはいつも笑っている。私と一緒にいるときは、いつも。でも。
笑顔だけが見たいわけじゃないんだよ。真白くんが本音をぶちまけてくれたことは、とても嬉しかったんだ。君に近づけたような気がして、もっと近くなりたくて。
私は一体どうしたいんだろう。真白くんと、どうなりたいんだろう。