気まぐれな君は
よく、分からない。恋愛経験のほとんどない私にはとても。
ふうと溜め息を吐いて、ありがとう、と私も笑い返した。通り過ぎていく看護師さんが、真白くんに声を掛けて通り過ぎていく。人気者なんだなあと思いながら、もう一度窓の外のコスモスへと視線を向けた。
真白くんが、私に、と言って見せてくれたコスモス。ここに来ない限りは見られない景色。
病院なんてほとんど来ないし来たくなんてないけれど、こんな景色が見られるなら少しは頑張れるのかもしれない、なんて思った。
「ねえ、真白くん」
「んー?」
「……やっぱり何でもないや」
私に、ってどういう意味なのだろう。それは、期待してもいい言葉なのだろうか。
そもそも、真白、なんてあだ名を呼んでいるのは私くらいだって茉莉に言われたけれど。確かに二年生になってから気付く、男子でも本当に仲のいい子しか呼んでいないことに。
真白くんは、気まぐれだ。だから、深い意味なんてないんだろう、きっと。
「……よし都築さん戻ろうか」
「え、もう?」
「だってー……まあいいじゃん別に!」
「まあ、真白くんがいいなら戻るけど」
私は自由に動けるわけで、真白くんに会いに来ればここを覗くことは好きにできるわけなので。
ソファにもたれかかってゆっくりするのかと思ったら、十分足らずで部屋に戻ることになった。少し柔らかいせいで立ち上がりにくそうにしている真白くんを手伝って立たせ、ゆっくり歩いて病室に戻る。おかえりなさい、と迎えてくれたお母さんは荷物を持っていて、帰るの、と真白くんが聞くと頷いた。
「真雪が一人寂しくお留守番してるから。夜お父さん来るって言ってたよ」
「今日父さん来るんだ、そっか。気を付けてね」
「すみません私、」
「いいのいいの、真空楽しみにしてたから。じゃあ真空、また明日」
「また明日ぁ」
呆気なく帰ってしまったお母さんを見送って、真白くんがベッドに座った。私はお母さんの座っていた椅子に腰を下ろすと、そういえば、とスマホを操作して画像欄を漁る。もぞもぞとしていた真白くんに都築さんと名前を呼ばれて、驚いて顔を上げると猫、と一言。