気まぐれな君は


***


「なんていうか、雫は考えすぎ」

「うーん……そうなのかなあ……」

「若葉にどうかーん」

「右に同じく」


若葉はともかく、茉莉や絵里に言われるなんて、と思いながら唸り声を上げた。


水曜日の放課後、若葉たちの教室である。真白くんはまだ退院していない。その間に若葉に相談しようと昼休みに教室に顔を出すと、部活がないという茉莉とサボるという絵里も一緒に話を聞いてくれることになった。


真白くんの、ことである。正確には、私の気持ち、なのだけれど。


一通り、真白くんの詳しい病気のことは伏せて今現在の状況を話してみた。それを聞いて帰ってきた返事が、考えすぎ、というものである。しかも、三人が同じように。


「だって、分かんないもん。付き合うってなに? どういうこと?」

「付き合うっていうのは、親友という関係に手を繋ぐとかキスをするとか、そういう行為がついてくるものだとあたしは思ってるよ」

「あー、上手い言葉思い浮かばなかったけど、茉莉の言葉に同意かな」


手を繋ぐ、とか、キス。


考えたことがなさ過ぎて、もうどういう反応をしていいのか分からなくなった。何とも言えない表情になった私を見て、茉莉がげらげらと笑う。笑い事じゃない、と声を上げると、ごめんごめんと誠意のこもっていない返事を返された。


「まあ、つまりは白川くんと手を繋ぐとかキスとかができるのか、って話だよ」

「……考えたこと、なかった」

「じゃあ今考えてみ。すぐに答えは出ないかもしれないけど、ちょっとは違うでしょ」


真白くんと、手を繋ぐ。キスをする。出来なくはない、と思う。でもそれだけが、付き合う条件になってしまうものなのだろうか。それって、好きという感情はどうなってしまうんだろう。


俯いて考え込み始めた私の頭を、とんとんと絵里が叩く。顔を上げると、あのね雫、と諭すような言葉。


「雫はね、本当に考えすぎなの。好きだから付き合う、でもいいんだよ。雫は白川くんのことが好きなんでしょう?」

「それは、えぇと、はい、……好き、です」

「もう雫可愛い!」


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