気まぐれな君は


「茉莉は黙って。……好きだって自覚、ちゃんとしてるんだから、それでいいんだよ。雫が白川くんのことを好きだって思った時点で、白川くんがどう思っていようと雫は白川くんのこと友達とは見れないでしょ? カレカノって、それに名前を付ける、一つの証だと思うんだよね」


それ、というのは、私が一方的に真白くんを好きで、真白くんからはどう思っているのか分からない関係のこと、だろうか。


「あーっと言葉が悪かったからクエスチョンマーク飛ばさないで。えっと、まあカレカノは好きあってる男女の関係の名前だけど。でも、雫からしたら友達ではないんだよ。でも今の関係だとカレカノでもない、宙ぶらりんな状況なの。付き合えば関係に名前がつくんだよ。その上で、カレカノっていうのは好きあってる上で手を繋ぐとかキスとか……うまく説明できないなあ」

「絵里に無理ならあたしには無理だね」

「茉莉は本能だもんね」

「どうせそうですよーだ! でもあたしが親友に手を繋ぐとかキスとか、って言ったんだからね!」

「分かったからキスって連呼するのやめてあげて」


雫が赤くなってる。言われて顔を隠すためにぱっと俯いた、が耳までは隠れない。絶対ににやにやしているであろう若葉と茉莉を見るのは恥ずかしくて、私はそっぽを向いて顔を手で覆った。


今の私たちは、宙ぶらりん。確かに、私は真白くんのことを友達としては見られない。だって、好きだから。この恋愛感情の好きと友情が同居しないのは、私だって分かっている。


でも、名前なんてつかなくたっていいって、ちょっと思っていた。違うのかもしれない、と茉莉と絵里の話を聞いて思う。手を繋ぐのはともかく、キスなんて出来るかどうかわからないというか、イメージができない、方が正しいのかもしれないけれど。


一つの証だと言った絵里の言葉は、私の心を波立たせた。


「まあでも、仕方ないよ、雫が白川くんのこと好きになるのは。だって白川くんも明らかに雫の扱いは特別だし。お見舞いも行ったんでしょ? 夏ん時もそうだったしさあ。男女の友情は成立しない!」

「……そういうものなのかなあ」

「そういうもんなの! だから考えすぎなんだってば、もっと気楽に生きようよ雫さん」


そうできれば既にこんなことで悩んでいないと思う。


証かあ、と思いながら、私そっちのけで三人でじゃれ始めるのを尻目に窓の外へ視線を向ける。学校の窓から見える景色は大したものじゃない。部活をしているサッカー部とテニス部、どこからか聞こえてくる吹奏楽部の楽器の音。病院で真白くんと一緒に見たようなコスモスなんて、住宅地にあるこの学校からはとても望めない。


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