気まぐれな君は


誕生日プレゼントは、迷いに迷ってブランケットにした。春先でも使えそうなものだ。真空がなるべく身体を冷やすことのないように。


書き上げた手紙を封筒に仕舞って、ブランケットのラッピングの中に入れておく。家に来るのなら、わざわざ持っていかなくてもいい。一応カメラを持って行っておこうと充電器に繋いで、私はクローゼットの前に立った。


よし、次は服選びだ。


正直選ぶほど選択肢はないのだが、折角の初外デート、いつもは家だから少しくらいは、と妥協してしまっていたりするのだけれど、明日はそうもいかない。真空はあまりそういうところは気にしないみたいだから、まだ楽だけど。


これでいいか、と明日着る分をクローゼットから出すと、部屋の入口から窺っていた飼い猫を見つけて名前を呼んだ。よいしょ、と抱き上げてベッドに上がる。


スマホのアラームをセットして、枕元に置いた。にゃあん、とすり寄ってくるのをわしゃわしゃと撫でて、ベッドの中に潜り込む。仰向けに寝るとお腹の辺りに丸まったのか少し苦しく思いながら、私はそっと目を閉じた。




朝からいい天気で、いつもよりも少し暖かいとお天気のお姉さんが言っているのを聞きながら家を出た。


土曜日。真空が来る、というと、仕事のあるお兄ちゃんと遊ぶ用事のあったお姉ちゃんは悔しそうにしていた。お父さんとお母さんは家にいるらしい。


電車に乗って、幾つか駅を通り過ぎる。真空に乗った車両を教えておくと、駅のホームで手を振る真空とスムーズに合流することができた。


「しーずーく!」

「おはよ、真空」

「うん、おはよ」


三ヶ月も呼び合っていれば、名前を呼ぶことは大分慣れた。たまにわざと真白くんと呼ぶくらいで、今では基本的に真空としか呼ばない。


見よう、と言っていたのは、猫を題材にしたものだった。原作が小説で、その作者さんが大好きな私と真空は映画化が決まったときから見に行こうと約束していた。公開日がたまたま今日だったため、これは見るしかないという話は前々から出てはいた。誕生日プレゼントの準備でうっかり忘れかけていたけれど。


ちゃっかり予約していた真空のお陰で、映画館に入って最初に見ることができそうだった。誕生日なのは真空だから、準備しておくべきなのは私だったんだけど。


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