気まぐれな君は


「なんか、何から何までごめ、……ありがとう」

「よくできましたー。と言っても、冬馬に言われたんだけどね」

「映画行くこと言ったんだ」

「うん。誕生日、冬馬も毎年なんかしらしてくれるし。そしたら予約しとくとスムーズだぞ、って」

「柳くんって真空の第二の母だよね」


仲良いなあ、と思いながら、入場許可が下りるのをロビーで待つ。そっと差し出された手を、私もそっと握り返して。これから見る映画の話をしていると、シアターが開くのはすぐだった。


楽しみだな、なんて思いながら、手は繋いだまま。くすぐったい気持ちになりつつも、離したいとは思わない。顔を見合わせて笑い合うと、楽しいね、と真空が小さく零した。


「映画って結構見るんだけどさ、俺。外で遊べないから、映画ってまだ見られるんだよ。でも、なんか、いつもよりちょっとわくわくしてる。……雫と一緒だからかな」

「またそんなこと言う」

「そんなこと言って、嬉しいんでしょ?」

「……まあ嬉しいけども。私だって、若葉たちと映画見るときより、どきどきしてるもん」


暗い空間で二人手を繋ぐって、結構どきどきすることを初めて知った。


真白くんと付き合い始めてから、初めて、がいっぱいだ。段々、付き合うということがどういうことなのかも分かってきている気がする。


男女の友情は成立しないと言っていたのは、誰だったか。そんなことはないと思っていたけれど、周りからしたらその通りなのだということ気付かされた。


女子が男子の家に行くこと。一人でお見舞いに行くこと。二人きりの時間を過ごすこと。あだ名で呼ぶこと。


たったそれだけ、と思っていたけれど、世間一般ではこれらのことはカレカノがすることだったらしい。だから看護師さんにも彼女だと思われていたし、茉莉からも何度も珍しいと言われていたのだ。


付き合っていれば、堂々と一緒にいることができる。ただの友達だと、もし相手に友達ができたらそれができなくなることだってある。私は別に真空と女子が仲良くしていてもあまり気にしないけれど、気にする人もいることを若葉たちに教えられた。


新しく知ることはたくさんあるけれど、その分楽しかった。真空の病気のこともちゃんと聞いて、分からないことは質問して、真空のことが分かることは嬉しかった。


付き合うって、楽しい。一緒にいることが、ただ傍にいられることが、とても。


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