気まぐれな君は


運動禁止。超虚弱体質。もしかして、何か病気でも持っているのだろうか。喘息とかだろうか。


よく分からないけど、よく分からないから、詮索はしない方がいいのかと思う。きっと、ちゃんと話してくれることはないのかもしれないし、言いたくないならそれでいいし。


ただ、隣の席だし、真白くんって呼ばせてもらう仲だし、一応気にしておこうかな、とは思った、その程度。


クラスのみんなも困惑した様な空気は出したけれど、真白くんと冬馬くんのやり取りでそれも落ち着いてるし。あとから掘り返すのも、なんというか気が引ける。


まあ全体の前で深く突っ込む人は流石におらず、そのまま次の人へと自己紹介が進んでいった。順番が近づいてきた私は、少し緊張しながら自分の番を待つ。何を言うか、項目は決まってはいるもののこの自己紹介である程度印象はついてしまうし、下手を打ちたくはない。


そうこうしているうちに、自分の順番はあっさり来てしまうもので。少し硬い表情で前に立つために席を立った私に、真白くんが小さい声で声をかけてきた。


「都築さん、笑顔笑顔」


ちらっと真白くんに視線を送ると、にっと笑顔が返ってくる。自分は最初あんまり笑ってなかったくせに。私、ちゃんと見てたんだから。


思ったけれど、言葉には出さずに唇の端をくいっと吊り上げた。そうそう、と頷く真白くんに思わず吹き出す。お陰で緊張が解けて、中腰になっていた腰を上げるとすぐそこにある教壇の前に立った。


「都築雫です。出身は南三中。部活は中学時代は吹奏楽やってたんですけど、高校では悩んでます。趣味は……写真、ですかね。風景だったり、猫だったりの写真を撮るのが好きです。カメラじゃないけど。人物を撮るのは苦手なのでカメラマンはしません! 一年間よろしくお願いします」


猫、の下りで何人かが笑った。よし、掴みはおーけーかな。


一礼して、自分の席に戻る。隣の真白くんの表情が、少し固まっているのが分かった。


私、何か言ったっけ。


自分の言った言葉を思い返してみるけど、特に思いつかない。さっきまでは笑っていたのに、急にどうしたんだろう。


分からないけれど、自己紹介はどんどん進んでいく。真白くんを見ているうちに真白くんの中学時代の友達の順になって、私が気になった表情はあっという間に消え去ってしまう。でも、私が見たのはきっと気のせいなんかじゃない。だけど、どうしてそんな表情をしたのか、私には分からない。


確かに、私と真白くんはまだ会って二日だけど。でも、なんでだろう。なんか、もう少し長い間一緒にいるような、そんな感じがする。


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