気まぐれな君は
それに気付いたのは、真空がいなくなってから一ヶ月も経っていない頃だった。
なんとなく、体調が優れない日が続いていた。最初は風邪でも引いたのかと思ったけれど、ふと気付いてしまった。
生理が、来ていない。
ストレスかと思っていたから、あまり気にしていなかった。久しぶりに外出した私を心配しておばさんがついて来ようとしてくれたのを断って、一人で外に出た。
ドラッグストアで妊娠検査薬を買って、家に帰ってトイレにこもった。しっかりと陽性反応が出ているのを見て、私は真空が死んでから初めて泣いた。
肌を重ねたのは、真空が入院する前日の一回だけ。避妊は確かにしなかったけれど、本当にできるなんて思っていなかった。
一人でも産むことを決めた。おばさんに話すと、産むと決めたのならいくらでも助けると言ってくれた。お母さんにも話して、いくらでも助けてあげるから好きにしなさいと言われた。お父さんもおじさんも、私が真空の子を産むことを認めてくれた。
条件は、たった一つ。幸せになること。
桜がすっかり葉桜に変わり、気温も安定して二十度を超えるようになってきた五月の連休明け。私は産院で、女の子を一人産んだ。
きっと真雪ちゃんなんだと思った。私と真空が繋がった翌日にいなくなった、真っ白な毛並みをした子。いつだったか、猫だった頃の話を聞いた時に、毛並みが真っ白い猫は八回目の生で、次は人間に生まれ変わるのだと言っていたから。
迷うことなく、私は産まれた子に真雪、という名前を付けた。
その真雪ももうすぐ小学校に上がる。私は一人、真空の墓石の前に立っていた。
「……久しぶりだね、真空」
納骨をしてすぐの頃は、毎日のように通っていたことを思い出す。今では月に一回、月命日の前後に来る程度だ。それでも多いと言う人もいるかもしれないけれど猫は懐いた人にはとことん甘えん坊なのだ。
「真雪ももう小学校に上がるよ。それから、また家族が増えたんだ。猫のね、小冬ちゃんだって。真雪が名前つけたんだよ」
真っ白な毛並みの、子猫。嗚呼この子も八回目なのだと、汚れていた毛並みを綺麗にして思った。
「おじさんもおばさんも、お父さんもお母さんも元気だよ。昴さんも。今度みんなで来るって言ってたよ。真空は寂しがりだったからなって笑ってた」
ねえ、そっちの生活はどうですか。
私がそっちに行くまで、まだ時間はたっぷりあるけれど、出来れば待っていてほしい。