彼女は王子様
「だからマスター、今はその名前じゃないって」
隣席の相手に視線こそ向けなかったが、僅かに笑いを含んだ喋り方、声のトーンは明らかに女性特有であるがどこか低めで淡々と話している節がある。
カラン、と緋景のグラス内を満たしていた氷が融解から響かせた音。
「あぁごめんごめん。今は遊亜だっけ?」
「わざとらし…」
毒づきながら緋景、もとい遊亜(ゆうあ)はグラスを口元に傾ける。
二人が今話しているのは本名ではなく、所謂バンギャネームというそのジャンルのみで告げる名前の事だ。
祐の様なヴィジュアル系バンドの追っ掛けをしている女性達のことを一般的にバンギャル、バンギャという。
「それでさ、彼が今バンド解散しちゃって大変なんですって。アナタ、詩紀に話してみてくれない?」
詩紀(しき)、そこでまた新しい名前が出た。
「あんまり期待しないで下さいよー?」
遊亜はズボンの後ろポケットから沢山のマスコット人形が付いた携帯電話を取り出す。
隣席の相手に視線こそ向けなかったが、僅かに笑いを含んだ喋り方、声のトーンは明らかに女性特有であるがどこか低めで淡々と話している節がある。
カラン、と緋景のグラス内を満たしていた氷が融解から響かせた音。
「あぁごめんごめん。今は遊亜だっけ?」
「わざとらし…」
毒づきながら緋景、もとい遊亜(ゆうあ)はグラスを口元に傾ける。
二人が今話しているのは本名ではなく、所謂バンギャネームというそのジャンルのみで告げる名前の事だ。
祐の様なヴィジュアル系バンドの追っ掛けをしている女性達のことを一般的にバンギャル、バンギャという。
「それでさ、彼が今バンド解散しちゃって大変なんですって。アナタ、詩紀に話してみてくれない?」
詩紀(しき)、そこでまた新しい名前が出た。
「あんまり期待しないで下さいよー?」
遊亜はズボンの後ろポケットから沢山のマスコット人形が付いた携帯電話を取り出す。